人類
手の中の小さな命には 涙を流せるのに 見上げる空のひずみには どうして 僕らは目を閉じるのだろう。 遠い祖先から受け継いだ このちっぽけな 脳の器は 「目の前の悲鳴」を聴くために作られ 「見えない世界の危機」を 測るようにはできていない。 水槽の底で 震えるイルカ 傷ついた一頭の 頼りない背中 そこには 顔があり、物語があり 今すぐ差し伸べられる 手のひらがある。 けれど 押し寄せる熱波も、膨らむ数字も、 あまりに巨大で、あまりに透明で。 僕らの心は その大きさに追いつけず ただ 立ち尽くすことしかできない。 なにより、恐ろしいのだ。 その大きな鏡に 映る自分が。 小さな命を救うとき 僕らは 優しい「ヒーロー」になれる。 差し出したぬくもりの分だけ 「正しい自分」を 抱きしめることができる。 だけど 燃える地球と向き合うとき 僕らは 逃れようのない「加害者」になる。 走らせる車、灯すあかり、暮らす部屋、 そのすべてが 静かな破壊の引き金だと 知ってしまうから。 「自分が悪者だ」という 痛みに耐えかねて 僕らは今日も、都合のいい目隠しをする。 大きな罪から 目を背けるために 小さな善意という名の 隠れ家に逃げ込んで。 この矛盾こそが、人間の業(ごう)。 愛おしくも どこまでも不器用な、僕らの姿。