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愛の形

  温かな部屋で、丸くなる背中を撫でるとき 私たちは 優しい神様になる。 ガラス越しに、愛嬌を振りまく命を見つめるとき 私たちは 愛に溢れた保護者になる。 手の届く場所にある命。 目が合い、声が聞こえ、私たちにどこか似た命。 犬の温もり、猫の喉鳴り、檻の中で飼い慣らされた野生。 私たちはそれらに名前を与え、愛を注ぎ、守ろうと涙を流す。 けれど、視線を足元のさらに深くへ、 あるいは、コンクリートの壁のずっと向こうへ向けてみよう。 光の届かない冷たい海の底で、 泥を這い、息を潜める奇妙な形の命たち。 人間の踏み入らぬ深い森の奥で、 ひっそりと生まれ、静かに朽ちていく名もなき命たち。 彼らには、愛らしい瞳がない。 私たちを慕う、分かりやすい鳴き声もない。 だから、私たちの手はそこまで伸びない。 「見えないもの」は、存在しないものとして扱われ、 救いのリストの、いつも一番下に書き込まれる。 なぜ私たちは、自分に似たもの、耳障りの良いものだけを愛するのだろうか。 なぜ私たちは、目の届く範囲だけを「世界」と呼ぶのだろうか。 それはきっと、見えない痛みを想像するには、 私たちの心が、あまりにも不器用で、狭いからかもしれない。 「かわいい」という感情のフィルターを通さなければ、 命の重さを量ることができないからかもしれない。 しかし、気づいてほしい。 私たちが手を差し伸べない暗闇の中にも、 確かに脈打つ心臓があることを。 名前を持たない無数の彼らの呼吸が、 この地球という星の生態系を、根底から支えていることを。 愛らしさだけで、命に順位をつけるのをやめよう。 目の前にある小さな世界だけでなく、世界の果ての暗闇を想像しよう。 見えないものへと思いを馳せ、そこに生きる命の尊厳を認めたとき、 人類は初めて、本当の意味での「優しさ」を知るのだから。

お前はクソだ

  1秒の快適、永遠の代償 カチ、コチ、と刻む秒針。 冷えた部屋で、僕らは息をつく。 外の猛暑をシャットアウトして、 1分1秒、この「快適」を死守するために。 1秒たりとも不快には耐えられない。 1度たりとも汗はかきたくない。 快適な暮らしという透明な箱庭を、 1秒たりとも崩したくはないのだ。 その指先がスイッチを押すたび、 北の氷床が静かに削れ、 遠い森が激しい炎に包まれても、 僕らはリモコンを手放さない。 明日を売り払い、今日を冷やす。 未来の100年を殺して、 いまの1分間を甘やかす。 青い星の皮膚を切り刻み、 差し出した代償の上に成り立つ、 非の打ち所もない、完璧な日常。 なんと小さく、 なんと浅ましく、 ——なんと愚かなのだろう。 破滅へと向かうカウントダウンの中で、 僕らは今日も、冷房の効いた部屋で 最高に快適な終わりを待っている。

人類

  手の中の小さな命には 涙を流せるのに 見上げる空のひずみには どうして 僕らは目を閉じるのだろう。 遠い祖先から受け継いだ このちっぽけな 脳の器は 「目の前の悲鳴」を聴くために作られ 「見えない世界の危機」を 測るようにはできていない。 水槽の底で 震えるイルカ 傷ついた一頭の 頼りない背中 そこには 顔があり、物語があり 今すぐ差し伸べられる 手のひらがある。 けれど 押し寄せる熱波も、膨らむ数字も、 あまりに巨大で、あまりに透明で。 僕らの心は その大きさに追いつけず ただ 立ち尽くすことしかできない。 なにより、恐ろしいのだ。 その大きな鏡に 映る自分が。 小さな命を救うとき 僕らは 優しい「ヒーロー」になれる。 差し出したぬくもりの分だけ 「正しい自分」を 抱きしめることができる。 だけど 燃える地球と向き合うとき 僕らは 逃れようのない「加害者」になる。 走らせる車、灯すあかり、暮らす部屋、 そのすべてが 静かな破壊の引き金だと 知ってしまうから。 「自分が悪者だ」という 痛みに耐えかねて 僕らは今日も、都合のいい目隠しをする。 大きな罪から 目を背けるために 小さな善意という名の 隠れ家に逃げ込んで。 この矛盾こそが、人間の業(ごう)。 愛おしくも どこまでも不器用な、僕らの姿。

緑の沈黙

  愛らしい瞳が潤むとき 私たちは駆け寄り、その手を差し伸べる 温かな鼓動を守ることは この上なく尊い、優しい祈り けれど その命が踊る舞台が 音もなく、静かに崩れ去っていることに どれほどの人が気づいているだろうか 枝葉が呼吸を止め 土が渇き、森がその輪郭を失うとき そこには声なき絶滅の連鎖が ただ静寂として横たわっている 「あの子」を救いたいという願いと 「森」が消えゆくという現実 その二つの道は、本当は一本の道なのに 私たちはまだ、分断された地図を歩いている 木々を愛でることは 空を仰ぐことは そこに生きるすべての命の、源流を守ること 目に見える愛しさの先へ その命を繋ぐ、深い緑の静寂へ どうか、想いを馳せてほしい 舞台がなければ、劇は終わる 森がなければ、命は行き場を失う 守るべきは、個別の温もりだけでなく その温もりを抱きしめる この地球という、大きな大きなゆりかごなのだから

矛盾の炎

  「森を守ろう」と声高に叫び その言葉を刷るために、また木を切り倒す。 「命の海を美しく」と歌いながら 使い捨ての便利さで、波間を濁していく。 冷房で凍えるほど冷やした部屋のなか 地球温暖化のニュースにため息をつき、 「エコ」という名の免罪符を提げた袋には 過剰に包装された、終わりのない欲望を詰め込む。 私たちは、なんと哀れで無責任なのだろう。 自らを賢い生き物だと信じ込みながら、 自分たちが乗っている船の底板をひっぺがし、 それを燃やして暖をとって喜んでいるのだから。 大地は悲鳴を上げない。 海は言葉で怒らない。 だが、その沈黙は決して「許し」ではない。 狂いゆく季節と乾いた風が、静かに限界を告げている。 「未来を救う」ための会議へ向かうため、 今日も空へ莫大な煙を吐き出しながら空を飛ぶ。 この滑稽な矛盾の連鎖に、 いったいいつまで気づかないふりを続けるのか。 もう、猶予など残されてはいない。 自ら編み上げた「便利」という名の縄で、 ゆっくりと、確実に、 自らの首を絞め上げていることに。

その瞬間まで…

  青かったはずの星で、太陽が牙を剥く。 風は熱を帯びた刃となり、海は煮えたぎる釜となる。 緑の肺は悲鳴とともに黒い炭へと変わり、 命の記憶が、空高く煙となって消えていく。 それでも、彼らは歩き続ける。 冷え切った部屋の中で、四角い画面の幻影に溺れ、 「今日も暑いね」と、空虚な笑みを交わしながら。 足元で大地がひび割れ、血を流しているというのに、 誰一人、その視線を下へと向けようとはしない。 「いつか、賢い誰かがどうにかするだろう」 無責任な希望の言葉が、ひどく冷たく響く。 その「いつか」は、とうの昔に灰に埋もれた。 私たちは、自らの手で火を放ちながら、 炎の中で「なぜこんなに熱いのか」と嘆く、愚かな傍観者。 焼け落ちたこの星の墓標に、言い訳は刻まれない。 すべてが燃え尽き、息絶えるその瞬間まで、 この恐ろしい無関心の夢から、目を覚まさないつもりか。