最適化された無感覚

 覗いてしまったのだ、あの世界の扉を。

動物たちの涙が川となり、

地球の悲鳴がこだまする、血と泥の現場を。

正義感に胸を焦がし、

「変えてみせる」と踏み入れたものの、

あふれる悲惨さに、心はすり減り、

涙で前が見えなくなった。

そして、その人は自分の「本来の場所」へと、

静かに帰っていった。

欲望がまぶしくきらめく、いつもの日常へ。

1分1秒たりとも快適さを手放せない、

あの手慣れた、安全な人間の世界へ。

不思議だった。

あんなに痛かったはずなのに、もう何も聞こえない。

動物たちの叫びも、地球のうめきも、

この分厚い快適さの壁の向こうへきれいに消えていく。

誰も叫んでいない。

ここにいた方が、ずっと楽だ。

分かっているはずなのに。

この便利で快適な日常の裏側で、

地球が壊され、たくさんの命が犠牲になっていること。

自分のその贅沢な暮らしそのものが、

あの悲惨な世界を作り出している刃なのだと、

心のどこかで、痛いほど気づいているのに。

「私はただ、普通に暮らしているだけだ」

「直接、手を汚しているわけじゃない」

その人は、必死に自分に言い聞かせる。

私は加害者なんかじゃない、ただの傍観者だと思い込むことで、

チクリと痛む良心の芽を、ねじ伏せるように蓋をした。

気づいてしまった真実から目を逸らし、

何食わぬ顔で、今日も快適な日常を消費していく。

一度でも痛みに触れたくせに、

都合よく忘れて、元の場所へ帰っていった自分。

被害者のような顔をして、本当は加害者である自分。

一番哀れなのは、もしかしたら――

その矛盾を心の底でうすうす感じながらも、

二度とあの扉を開けようとしない…

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